TRPGシナリオのニッチ化が進んでるって話

TRPGを遊び始めてもう7年目です。すっかりおじさんになっちゃたなあと思うなどしています。
少し前に、わかばTRPG部でもシナリオを書いてくださっているずいずいさんと「最近、覇権取ってるような大型シナリオってないですよね?」という雑談になりました。
言われてみれば確かにそうだと思い、話し込んでいる内に、今TRPG界隈自体のバブルの終了と、コミュニティが分断されているという話になったので、それをまとめます。
どうも、脳内思考解体センター局長のふれのです。ではよーいスタート。
TRPG界隈、バブルの終焉
皆さんご存知の方もいらっしゃるかもしれませんが、2023年11月をピークに、それまで右肩上がりだったココフォリアのアクティブユーザー数が43万人から41万人へと減少に転じました。長らく微増を続けてきた界隈にとって、これは大きな転換点です。
これはシンプルに「界隈が歳を取った」んですよね。もう少し丁寧に言うと、TRPG界隈が「成長期」から「成熟期」へと移行したということ。実際、TRPGというニッチな趣味にしては、これまでの人口増加はかなり異例だったとも言えます。
だからTRPGが「オワコン化した」というのは誤りで、単純に「バブルが終わった」と捉える方が自然かなと思います。
配信世代の成長とライフスタイルの変化
動画や配信から始まったTRPGブームと世代の加齢は感じる
2010年代後半から2020年代初頭にかけて、ニコニコ動画やYouTubeの配信などでTRPGのリプレイ動画が人気となり、ブームが起きました。
動画からTRPGに入った層は全体の半分以上を占めており、多くが10代後半から20代前半でした。TRPG配信を見ている人のデータを厳密に集計したわけではありませんが、傾向としては明らかでしょう。
ということは、彼らは今ごろ20代後半〜30代になっています。私のアンケート調査でも、「ふれシ」(ふれののシナリオ)を遊ぶ人たちは20代後半〜30代前半の方が多かったんですよ。
ココフォリアのアクティブ年齢層分布では18~24歳が最大勢力のようですが、これは20代後半から30代のかつての層が離脱していることを意味します。
就職して仕事が忙しくなったり、結婚や出産などライフイベントが増えたり。以前は大学生ノリで鬼のように卓を回していた友人たちも、今ではかなり控えめになってます。
これを「落ち着いた」と見るか「冷めた」と見るかは人それぞれですが、結果としてアクティブユーザーの減少につながっているんですね。
エンタメ選択肢の多様化
エンタメの多様化時代にTRPG遊んでる人は本当に貴重だと思う
ココフォリアの新規参入率は初動こそ強かったものの、ここ数年は微増という状態で、それが頭打ちになったのが最近の状況です。離脱していく20後半のユーザーを補なうほどの新規流入がないということです。
理由としては、他のデジタルエンターテインメント(モバイルゲーム、VTuber、TikTokやショート動画など)との競合でしょう。若い世代が「TRPGを遊びたい」と思う率が低下していることが要因でしょう。Z世代のエンタメ選択肢は無限にあり、その中でわざわざ時間効率の良くないTRPGを選ぶ率はそう高くはないでしょうね。
かなり前のことですが、任天堂が株主総会で「ライバルは誰ですか?」と聞かれた時に「あらゆる娯楽です」と回答していました。こういう状況になると、その先見の明があったことに納得します。
ということでユーザー数は減少しつつありますが、それでも未だにTRPGを遊んでいる人というのは熱心なユーザーが多いとも言えます。もともとTRPG界隈は入れ替わりが激しい界隈というよりは、「ハマる人はハマる、ハマらない人には一切ハマらない」という特性があり、定着率が高い遊びであるともいえるのです。
そして成熟期に入った界隈の人たちが求めるものって何でしょう? それがこれからの本題です。前置き長すぎぃ。
コミュニティの細分化とニッチ化の波
遊ぶ「シナリオ」を厳選し、シナリオ作者がそれに応えていく流れができた
シナリオファーストの時代
今のTRPGは「シナリオファースト」の時代です。つまり「このシナリオを遊びたい!」が出発点になっています。昨今では「メンバーが集まったからシナリオを決めよう」という流れはほとんど見なくなりました。
そしてTRPGのシナリオの多くは同人シナリオです。公式が出したシナリオももちろんありますが、それがみんなが遊ぶような「覇権シナリオ」になっているケースはあまり見られません。
同人文化はそもそも「大衆向けの王道作品」ではなく「自分の好きを詰め込んで共有する」という側面があります。だから内容はマニアックになりがちで、商業誌では扱いにくいニッチなシナリオが多く見られるのは必然です。
TRPGライツにより、もともと溢れていた同人シナリオがマネタイズできるようになり、配信に使われたり、BOOTHで販売されたりするようになったのも、これを後押ししたと言えるでしょう。
なんと、CoCの同人界隈では全体の38%が何らかの性的要素を含むシナリオだそうで、これは商業誌では扱いづらい内容でしょうね。公式としてCoCをそういう方向性にしていくのは勇気が必要だと思いますし。
ただ、界隈が縮小しているなら、シナリオ作者側としてはなおさらニッチなコミュニティに対して訴求していく必要があるということですね。しっかりと届く魅力がないと、シナリオは遊ばれなくなってしまいます。
シナリオ選びの丁寧な文化
さて、TRPGというのは遊ぶのに非常に時間がかかる娯楽です。長時間かけてセッションに挑むのに、世の中にはとんでもない量のシナリオが溢れています(特にCoCは顕著です)。
つまりユーザーは「遊ぶシナリオを厳選しないといけない」という状態になります。適当に見つけた内容の分からないシナリオは、無料でも遊ばれないわけです。
そのため、シナリオ作者側は「こんな人におすすめ」「この要素が含まれるので苦手な方は注意」といった形で、ユーザーが選びやすいような情報提供を行うようになりました。互いに不幸な「ミスマッチ」を回避するよう努めるようになったわけですね。
地雷チェッカーなんて言葉、昔はなかったわけですし。そんなものは必要なかったし、そんな地雷を気にしてシナリオ厳選する作業もなかったんです。
ニッチであることの強み
TRPGに限らず、コンテンツというのは極まれば極まるほどマニアックになり、その分野の愛好家にとっては面白くなります。代わりに初心者お断りの世界になるという側面もあります。
難関アクションゲームである「フロムゲー」(ダークソウルなど)が高く評価されているように、格闘ゲームやシューターゲームでもレートを上げれば上げるほどエキサイティングなバトルが楽しめたりします。
マニアックなコンテンツは「ユーザー総数は減る」けど「コアなファンには強く刺さる」という特徴があります。シナリオ作者たちも、「こういう人に向けて書こう」と明確なターゲットを設定して、そのユーザーには強烈に刺さるシナリオを作るようになりました。逆に、万人向けの王道シナリオや初心者シナリオなどは減っていきました。
余談ですが、この話を一緒にしていたずいずいさんは「初心者向けを書きたい」という目標があるのに、自分の好みを追求した結果、毎回特殊ギミックや世界観を詰め込んで、結局ニッチになっていくという特徴があります。
頑張って王道の初心者OKシノビガミを書いてほしいですね! 私は王道系が好きなので、そういったシナリオを探しているのですが、あまり見つからないという悩みを抱えていたり。
閑話休題。先ほどの配信ブームの話にも繋がりますが、配信者陣ならではの物語が楽しめるマルチエンド式のシナリオなども多いです。これは同じシナリオの視聴を複数回しても毎回楽しめるという側面があります。
誰もが同じ感動を味わえる大衆に受けるシナリオというのは書くのも難しいですし、特定のユーザーを強く惹きつけるのも難しい。だったら同人らしくマニアックに振り切ってしまおう、というのが昨今のシナリオの特徴なのでしょう。
コミュニティの分断と新たな文化
信頼した人同士で遊ぼうって流れが加速したよね
さて、こんなニッチなシナリオを野良で出会った人と一緒に遊びたいと思いますか? 思いませんよね。実際、そういった状況では楽しむのは難しいでしょう。
ということで、TRPGの遊び方は「信頼のある身内と遊び続ける」というコミュニティ依存度が上がっていきます。野良卓で遊ぶ層というのはデータを取っているわけではありませんが、減っていると思われます。
信頼のある身内と、信頼のあるキャラクターで、自分たちの好むシナリオを選ぶ。それを理解しているからこそ、シナリオ作者側はどこかのコミュニティに強く刺さるニッチなシナリオで他所との差別化を図ります。
そうして遊ばれたシナリオの評判が、狭いコミュニティ内で話題になり、そのコミュニティ内で繰り返して遊ばれていくという「口コミ」の発展文化が生まれています。特に大きな事件や、界隈が大きく動くような何かがあるわけではなく、ただ市場が自然とそのように移り変わっているというのが、現在のTRPG界隈の現状です。
いやはや、まさに界隈の成熟期といった雰囲気ですね。だから「みんながこぞって遊んでいる覇権シナリオ」「有名シナリオ」というのは数を減らしていったわけです。
SNSの変化も大きな要因
ぶっちゃ私はもうTwitter(X)を見てないですしね
もう一つ、見逃せない要因として挙げられるのは、Twitter(X)の仕様変更による影響でしょう。これは私自身がSNSから少し距離を置いているため、より顕著に感じていますが、明らかに人々の熱量が拡散する力は弱くなりました。
XのAPI廃止、広告挿入の頻度の増加、インプレッションゾンビを含むブルーチェックアカウントのスパム増加、そしてAI学習目的の利用による嫌悪感を示す人の増加など。
Blueskyやmisskey(ミスキー)へ移動する人や、SNSに疲れて閲覧を控える人なども増えており、誰かの発信に対する盛り上がりが以前よりも静かになりました。
これは私自身にも言える話ですが、シナリオに興味を持つきっかけって結構「タイムラインで名前だけ見かけたシナリオが気になる!」という導線が強いと思います。その頻度が減ったなら、大型シナリオがバズって覇権になる可能性も低くなりますよね。
もう少し前から、XやYouTubeといった巨大コミュニティでトレンドが生まれてみんながそれに流されるという流れは廃れつつあって、自分の所属しているコミュニティ内でムーブメントが起きるようになったイメージがあります。
SNSとの関わり方については別の記事で詳しく書く予定ですが、とにかく「大作シナリオがバズって → みんなが遊んで → それを見た人が気になってプレイしたくなる」という流れは、以前より弱くなったと言えるでしょう。
今後のシナリオ製作をどうするか
今回の話をまとめると、以下の3点が今のTRPG界隈に起きている変化です。
- コンテンツの専門分化
- コミュニティの分散と発展
- 遊戯形態、アクティブユーザー層の変化
では、シナリオ製作者であるふれのとしては、どのようなアプローチを取るべきでしょうか? 私は別に特段マニアックな嗜好を持っているわけではないと思いますが、同人シナリオの中でどんな展開を提供しているかを分解すると。
- 熱いシチュエーション
- さりげなく散りばめられた伏線が隙間なく回収される展開
- 喪失と覚醒を繰り返すダイナミックなシナリオ展開
この辺りでしょうか? 実際に遊んでみると体験としては上質かもしれませんが、これではシナリオ選びの段階で「遊びたい」と思ってもらえるまでに至らないことが問題です。
例えば「いつか見た彗星」なんかは、濃密な展開が疾風怒涛のごとく流れてくる、かなり上質なシナリオだと自負しています。一方で、そのイメージがシナリオの公開情報の時点であるかと言われると、残念ながら十分ではないと思います。

対して「君が静かに眠るなら」「眠れる勇者は愛を詠う」などは、パッケージの時点で「おや? 面白そう」と目を引くような表題にでき、特定の層を狙い撃ちにすることができたと感じています。

つまり、ちゃんと刺さる層をイメージしながらシナリオのパッケージを仕上げ、中身はこれまで通り洗練させたものにするというのが目標になりますね。課題は「パッケージング」ということになります。ここが苦手な私にとっては難しい分野ですが、頑張っていきたいと思います。
というわけで、雑談したてほやほやの内容をアーカイブ的にまとめてみました。皆さんのTRPG界隈に対する見方はいかがでしょうか? 良かったらまた教えてくださいーふれのでした。