テオトピア コンセプト最強 クオリティ足りず

テオトピア(THEOTOPIA)というサービスをご存知でしょうか? TRPGのオンラインセッションを統括するウェブサービスで、シナリオの投稿、掲載されているシナリオからの募集、そのまま参加申請、スケジュールの管理まで一元で管理できるというサービスでした。
ただ、実際には利用ユーザーは非常に少なく飛ばず鳴かずの限界集落と化してしまい、そのまま先日サービス終了を発表し、静かにその生涯を終えてしまうという哀しい結末となっています。2024年の2月にサービス開始となり、翌年2025年の9月にサービス終了となりました。
企業運営という地盤の安定感、綺麗なデザインと優れたコンセプトを持ちながら、なぜこのサービスは失敗したのでしょうか。今回は、テオトピアの敗因を確認して、どのようにすれば良かったのかを分析し、TRPG界隈をふかーく分析したいと思います。
どうも、TRPG界隈のちょっかいかけふれのです。ではよーいスタート。
コンセプトは強かった
テオトピアというサービスは、シナリオの投稿機能、セッションの募集機能とマッチング機能、その後のスケジュール調整機能を内包しています。これは今のオンラインセッションにおいては必須の要項と言えるため、これらすべてを内包しているこのサービスは利便性において最強だと言えるでしょう。
そう、このコンセプトだけを見れば……。残念ながらこれらからユーザーを移動させるほどの品質が高くないと成立しません。
競合する既存ツールは?
では、テオトピアがない状態で、他のみんなはどのように各機能を使っているのか見ていきましょう。
シナリオの投稿機能については、pixivやシナリオシートサイトなど様々な投稿場所がありますが、最も大きいのはTALTOでの無料公開、またはBOOTHでの有償頒布でしょう。
マッチング機能については、SNSを用いて行っているケースが多いですね。日程を決め打っているか、もしくはすり合わせ時期を指定し、あとは遊ぶ指針や好みなどをプロフィールに載せるなどして募集する、参加する方々をTwitterなどでよく見ます。
スケジュール調整機能については、伝助やデイコードを使っているケースが多いです。
つまりこれらが対抗馬なのですが、当然ですがこれよりも便利じゃなければ利用する価値はないわけです。既存のツールの方が便利なら既存のツール使えばいいじゃんってなる。
結果としては一つ一つ細かな分析まではしませんが、すべてにおいて敗北と言ってしまって良いでしょう。既存ツールのクオリティや使い心地を70点とするならば、テオトピアの各機能は40点くらいの品質でした。
面倒くさいシナリオ投稿
シナリオの投稿サイトとしては、投稿時に気にしないといけないことが多すぎる。規約やルール、独自のフォーマットを気にしないといけないのと、PDFでの入稿というのはハードルが高く、とにかく「手軽さ」がない。
現に、私はテオトピアのサービス開始時にシナリオ投稿しようと思って、その方法や独自のフォーマットに「ああ、これは私のシナリオはお呼びではないな」と投稿を止めてしまいました。
しかも決済機能を持たず、有償シナリオを頒布する場としてはTALTOやBOOTH、テオトピアへそれらを掲載する際はリンクを載せるだけという連携の悪さ。作者が「敢えてテオトピアにシナリオを投稿する」意味がまったく見出せないんですよ。
スケジュール管理機能の方向性ミス
そして、特に市場とズレたものをリリースしちゃったなあ……と感じたのがスケジュール管理機能です。
まず皆さんセッションの日程調整をするときに何を使う? というとデイコードとか伝助ですよね?でもテオトピアのスケジュール機能って、「4月5日 21-24 〇〇〇のセッション」といったイベント内容を一つ一つ投稿する機能なんです……。
そう、これ、機能がスケジュール調整アプリじゃなくて、カレンダーアプリなんですよ! スケジュール調整するためにGoogleカレンダー使ってる人なんて見たことないです。
実際、テオトピアのセッションマッチング場面を見ると、募集者が「〇日、〇日、〇日、〇日が候補日です」と記載し、参加希望者が「〇日と〇日なら行けます。いかがでしょうか?」とコメントを打ってる始末。
ええ、Twitterの野良卓と何も変わらない……既存のツールより便利じゃないなら乗り換える意味はないんです。
TRPG民の使うスケジュール調整って、「〇月〇日に予定がある」って情報じゃなくて「一か月分丸々の日程〇×の確認」なんです。それをそのままマッチングでの日程調整に使えると、ようやく既存ツールを超えた価値があるんです。
人はそう簡単に移動しない
そしてもう一つ大事なんですけど、「便利で良いものも使われるわけではない」ということです。
人間というのは面倒くさがりで、楽して報酬をほしがります。今まで使い慣れたツールを手放して新しいツールに順応するというのは面倒くさいんです。その面倒くささを超えてでも最高の体験が待っていると保証できる場合だけ、その新たなツールに手を出します。
例えばSwitch2が売れた最も強い理由は、「switchのソフトが遊べるから」だと考えています。そしてそれを強くプッシュして認知できていたこと。新たなソフト資産をそのまま継承できて、ボタンの配置やUIも基本的には変わらない。何も面倒くささを感じることなく新しいソフトが遊べるようになる。
どれだけ使いづらくてもTwitterには人は残りますし、ゲーム的に洗練された新しいシステムが出ても古いシステムを捨てられません。
今まで70点の便利さを享受していた人に80点の便利ツールを提供しても人は移動しません。100……いや、150から200の便利さが必要で、その新ツールは旧ツールの機能をすべて内包している必要があります。
大量のコンテンツがある覇権前提の作り
優秀すぎるマッチング機能の皮肉
良いところも挙げましょう。先ほどシナリオ投稿時のフォーマットが面倒くさいと話しましたが、シナリオの様々な属性を付与できます。
いわゆる要素、地雷チェッカー、その属性をシナリオや個人のプロフィールに盛り込み、趣向が合うシナリオ、同じ感性の人たちとのマッチング機能に使えます。
例えばR18の〇〇という要素がシナリオ内に含まれる場合、それを明記しておくことでシナリオの検索、検索避けに使えます。マッチングするときに個人のプロフィールに〇〇という要素について地雷かどうかを示しておけるのでマッチングの材料として役立ちます。
もちろん〇〇という要素を探したいときにも便利ですよね。こうやって大量のシナリオ、大量のユーザーの中から噛み合うものだけを選んで……。
精密マッチングは
一見便利なこの仕組みって実は机上の空論で、大量のコンテンツと、大量のユーザーがいることが前提なんです。
これはオンラインゲームすべてに言える課題なのですが、ユーザーが少なくなるとマッチングが機能しなくなります。同じ敵を倒すパーティを募集しても、その敵を目的にしている人がいなければ成立しません。モンハンでドスジャギィのクエスト貼って何人が来てくれるんだって話です。
テオトピアくんはシナリオの要素や地雷ポイントを非常に細かく設定できます。そのお陰で、いやその性で非常に精密なマッチングが可能になった反面、ただでさえ少ないシナリオが要素を絞って更に細分化してしまうという作りになっていました。
マジで覇権を取って全TRPGユーザーと全TRPGシナリオを統括するくらいしか勝ち目がないような設計になっています。
質と量のトレードオフ
そして思い出してほしいのですが、テオトピアのシナリオ投稿は……「気軽」じゃないんですねえ。面倒くさいんですねえ。
テオトピア側である程度シナリオの品質を担保したかったという側面もあるでしょう。BOOTHは確かに一部で問題のあるシナリオも報告されるような無法地帯である側面も持っています。値段に反してコンテンツがスカスカだったという問題は時折話題になります。そういったクソシナリオを持ち込みたくなかったのかもしれません。
ただ質を担保するということは、それは量を集めるという仕組みとはトレードオフです。だったら細かな地雷分けなどはユーザーに委ねて、とにかくシナリオとユーザーを出会わせる回数を増やさないと勝ち目はなかったでしょう。
多分CoC専用システムとして設計してたのかな
ただ、実際にはそこまで勝算をもって挑んではいないと思います。
というのも、テオトピアのリリースまでひと月を切っている段階で、運営のTwitterで「どのシステムに対応させてほしいか」というアンケートを取ってたんですよね。
めちゃくちゃ緻密なマーケット調査をして、覇権を取るために対抗サービス全部駆逐する黒船になるつもりで運営していたなら、この時点でのこのような挙動はありえないでしょう。
テオトピアは一度触れば「CoCに特化したサイト」であることは分かるでしょう。つまりこれ、元々はCoCユーザー向けに開発していたと思われるんですよ。他システムに対応したサービスではなかった。
でもいざ、情報出して見たら思ったよりもインプレが悪い……このまま終わるくらいなら他システムも巻き込んじゃえ! 奇跡起こってめっちゃ流行れ!! みたいな空気感だったのかなあ……って。
どうしても中途半端に見えちゃいました。覇権取るために全力投球してる風にも見えません。
どうやったら勝てたのか
利益をあげるなら覇権狙い一択
テオトピアの運営は企業です。つまりただ神サービスを提供するだけでは何の成果も得られません。利益を上げる必要があります。
上でも挙げましたが、テオトピアは覇権を取る前提の作りになっていましたが、この方向性は合っているでしょう。
つまりTALTO、伝助やデイコード、BOOTH、なんならココフォリアやDiscordまで仮想敵と定め、これらを乗り越えて「テオトピア」に塗り替えるだけの火力が必要です。
こういうサービスは分母がめちゃくちゃ大事です。幸いなことに頻繁に重たいコンテンツを投稿するタイプのサービスではないため、Twitterなどの大型SNSと比べるとサーバーの維持費は比較的安め、とにかく人が多いことによるデメリットは比較的安いです。
なら、狙うのは商店街の一区画ではなく、大都会のショッピングモール一等地です。覇権を取って全TRPGユーザーの集会所にすることです。
覇権を取るための戦略
覇権を狙うなら各サービスにおいてとんでもないクオリティを叩き出して既存ツールを過去にして駆逐するくらいの便利さが必要です。
そしてその便利さを積極的に公式から発信させ、TRPG界隈のインフルエンサーなどにPRさせる必要があります。
ネット上での情報の拡散はバズるかどうかです。ある程度の熱量を超えると、それはトレンドになりバズになります。突き抜けないとユーザーの熱量は拡散しないのです。
シナリオ投稿機能について
PDFやドキュメント、テキストなど、様々な形式での頒布に対応させ、有償頒布を行う場合はテオトピア内で決済を完結させます。
つまりシナリオ作者に「テオトピアで公開しよう」と思わせることです。そして量がなによりも大事なので規約や審査を簡略化し、とにかく気軽で質の低いシナリオでもいっぱいテオトピア内にシナリオを集めます。
ユーザーがシナリオを探すときはDL数順、人気順など様々な手法で質の低いシナリオを足切りできるので、運営はその手間を被ってシナリオの本数を減らす必要はないです。
そしてCoCユーザーのみに絞って良いです。少し古いデータですが、Twitterでのランキングなどの分母を見るとCoCユーザーとそれ以外のシステムユーザーは99%:1%ほどの差があります。
そんな小さなパイを取るために他システムの対応や最適化をするくらいなら、CoCに特化させて99%のユーザーを狙い撃つ方がマーケティングとしては優秀です。なのでCoC特化サイトとして作っていたのであればそれは正解だったと思います。
スケジュール管理の革新
ここが個人的には心臓部です。これはあらゆるユーザーの方が思っていると思うのですが、既存のスケジュール管理ツールは穴だらけで付け入る隙は十分あります。
まずは、スケジュール管理で必要なのが「セッションごとに毎回入力する手間をなくす」です。入力するスケジュールはマイページにある一つだけにしたいです。
そしてそのスケジュールをセッションの開催者、参加者と共有できる状態にします。これによりシナリオの開催側は、開催する候補日に日程が空いている人、マッチングが成立する人たちの組み合わせでセッションを成立させられるわけです。
現在のテオトピアはカレンダーツールのように、予定が入っている箇所に一つ一つ予定を追加するという作業が必要です。そんな面倒なことができるはずがない!
日程は空いているか埋まっているかさえ分かれば良いです。Excelの表のようなテーブル型のUIで一斉に塗りつぶせるようにしましょう。
夜しか遊べない人は、それ以外の時間を範囲選択することで一撃で夜だけ〇になったスケジュールを作成できます。プライベートな予定が入った場合、仕事で出張が入った場合、その範囲を一斉選択するだけで一気に×に変えられます。
「出張」「旅行」「〇〇のセッション」とか、入れるのはあり得ません。そもそもマッチングするのに×が付いてる理由なんていちいち聞かないでしょう?だから**×の中身を入れる必要はなく、範囲選択で×にするだけ**。
現実的な問題
最終的に当たり前のことしか言わなくなりましたが、結局これしか勝ち目はなかったと思います。
私はテオトピアを使ったとき、これが便利なツールなら周りにお勧めしようと思いました。実際には40点の出来栄えで使い物にならなかったので勧めるには至らず、自分も使用しませんでした。シナリオ投稿を行おうとして止めたのも気軽さがなくて「面倒くさ」って思ったところからです。
「これ本当にTRPGやってる人が設計してるのか?」と文句が出る状態でしたが、設計はTRPG分かってる人がやっていたけど、それが上に承認されるとき、制作会社にシステムを作ってもらったとき、それぞれでズレが起きて今の現状になってしまったという説を考えています。
コンセプトは最高だった
シナリオ投稿からスケジュール調整とマッチングまで一元管理できるサイト。というのは個人的には是非ともほしい理想の場所です。
そのコンセプトは非常に素晴らしく、リリース当初はワクワクしていたのを思い出します。本当に期待してたんですよ。
しかし蓋を開けてみると面倒くさい投稿機能と使い物にならないスケジュール機能で白旗を上げてしまったわけです。
まあ、この惨状を見たら同じコンセプトで挑戦しようって考えるような人や企業が現れるとは思えないんですけど……
個人的にはTRPG界隈にほしいんですよ。機能やコンテンツが全部集まるTRPGプラットフォームって。だから諦めないでほしいなあ。むしろテオトピアの敗因を分析して勝算持って挑んでくれる個人か企業が現れることに期待しています。
え? お前はやらないのかって? はっはっはCoC嫌いな人が覇権コンテンツとか作れるわけないでしょうご冗談をー(笑)
でもスケジュール調整機能だけに特化したウェブサービス作りたい願望は昔からあるんですよねえ。この上のスケジュール調整だけ切り出したサービス作っても人気出せるんじゃない?って。
とはいえマネタイズで死ぬほど苦労するのは見えている未来。
デイコードの入力をイベントごとに個別に入れるのではなく、「自分のところ一か所だけ入力する」という形ができればスケジュール調整は完成だと思うのですが……。
テオトピアの失敗は、コンセプトの誤りではなく実行の問題だった。次なる挑戦者には、この分析を活かして、TRPG界隈が本当に求めているプラットフォームを作ってほしいと思います。