「シナリオレビューしないで」、矢印はどっちを向いてる?
2026年8月9日、「TRPG大福」というサービスが公開されました。
https://daifuku.onlinesession.app
TRPGのシナリオを検索して、レビューを書いて、遊んだ記録を残せるサイトです。公開から11日後の8月20日時点で、登録シナリオ2,889件、対応システム106種、レビュー3,711件。公式によれば「★だけの評価」を含めた総投稿数はこの2倍以上あるそうです。11日で7,000件を超える評価が積み上がった計算になります。かなり爆速です。
そして案の定、学級会が始まりました。
「レビューしないでほしい」と言う作者。「有償で売っておいて何様?」と返すユーザー。シナリオを非公開にする人。いつもの光景といえばいつもの光景なんですが、TRPGというジャンルは、そもそもレビュー文化と噛み合わない構造を抱えている側面があります。
今回は今何が起きているのか、TRPG界隈特有の空気感と問題点はといったところを分かりやすく解説します。先に立ち位置を明かしておくと、私はシナリオを書いて売っている側の人間です。
結論としては、その「お願い」の矢印は、作者自身を向いているのか。それともユーザーを向いているのか。という話になります。
どうも、レビュー0件のシナリオを13本抱えるTRPGソムリエ、ふれのです。ではよーい、スタート!
1. まず「TRPG大福」とは何なのか
TRPGのシナリオ、公式が出しているものもありますが、圧倒的多数は個人が書いた同人シナリオです。BOOTHやTALTOで、無料または数百円〜千数百円で頒布されています。
で、TRPG大福が何をするサイトかというと、その公式や同人シナリオに星5段階の評価とレビューを書けるサービスです。それだけ。作りはシンプルで、動作が軽い。
触ってみて「うまいな」と思ったのは、レビューに添えられる情報です。文章と星だけじゃない。
- PLとして遊んだのか、GMとして回したのか
- オンラインかオフラインか
- シナリオを通読しているかどうか
を設定可能になっています。GMが「回しやすさ」を語っているのか、PLが「遊んだ感想」を語っているのかで、レビューの意味は全然違いますから。
ネタバレ部分は折りたためます。 レビュー本文の途中に「一部ネタバレあり」というフタがかぶさっていて、クリックしないと中身が見えない。規約にも明記されています。
シナリオの核心に触れる内容には、適切なネタバレ設定を使用してください。
(TRPG大福 利用規約 第3条/制定日2026年8月7日)
投稿にはGoogleアカウントでのログインが必須。完全匿名の落書き帳ではありません。
ざっくり言うと、「食べログのシナリオ版」を、ネタバレ配慮つきで作ったサービスです。
レビューサイトは、大福が初めてではない
レビューサイトとしては、TRPG大福は初登場でも唯一でもありません。
たとえば、2023年12月には「COC同人シナリオレビューサイト」が公開されています。CoC同人シナリオに特化し、投稿内容を管理者が確認してから掲載するサイトです。2025年12月には、企業運営のポータルサイト「TTRPG.JP」も登場し、レビュー機能を備えていました。どちらも公開時には界隈で話題になっています。
ほかにも、規模や設計の異なるレビューサイトはいろいろあります。サイトが存在することと、レビュー文化が根付くことは別です。
大福はこれまでのレビューサイトと比べると話題になっている印象を受けます。純粋に投稿ハードルが低くて、速くて、単純に当たったからでしょう。11日で3,700件という件数がすべてを物語っています。
レビューがあると、ユーザーは何が助かるのか
まず、高評価か低評価かが一瞬で分かる。 遊びたいシナリオを探している人が、わざわざ低評価のものを選ぶことはないでしょう。
そして星を付けるだけでなく、コメントが読める。何が良かったのか、何が合わなかったのか。星を付けた人には必ず理由があって、その理由が読める。
今のTRPG界隈は有償頒布のシナリオがかなりの割合を占めています。1,000円払って、中身を開いたら「トレーラーだけ豪華で本文はぺらっぺら」「思っていたものと明らかに違う」。という事故が普通に起こります。しかもシナリオは基本的に返品できません。
さらにTRPG特有の事情として「地雷」があります。その人が生理的に受け付けない要素のことですね。虐待描写、恋愛強制、PC同士の殺し合い、鬱エンド確定。
これらは「悪いシナリオ」ではありません。その人に合わないだけです。でも、合わない人が踏むと本当にダメージを受ける。なのでこの要素をチェックするために「地雷チェック」という文化がありますが、これは共通の規格などがあるわけでもないので、作者も想定していない予想外の要素でプレイヤーがダメージを負うといったことも頻発します。
これまで、この情報を得る手段は「フォロワーの散発的な感想ツイート」か「詳しい友人に聞く」しかありませんでした。つまり人脈がある人だけが事故を回避できた。
レビューサイトとは、その情報を誰でも取れるようにする装置です。ユーザー視点で見れば、どう考えても健全な方向でしょう。
「レビューされたくない」という作者
しかし、こういうサイトが出るとTRPG界隈には、「自分のシナリオをレビューしないでほしい」という作者が必ず登場します。
界隈の外から見たら「は?」でしょうね。レビュー禁止って、どこからどこまでを指しているのかが曖昧です。星評価がダメなのか。レビューサイトへの登録がダメなのか。ブログに体験談を書くのも、SNSで「楽しかった」と言うのもダメなのか。
もちろん、ネタバレを避けにくい作品構造や、レビューサイトそのものへの不信感を理由にしている作者もいるでしょう。理由は一枚岩ではありません。
ただ、絶賛レビューしか来ないなら、大歓迎する作者がほとんどでしょう。実際、大福の公開直後に「自分のシナリオを登録したので評価してくれると嬉しいです」と告知した作者は山ほどいます。レビュー禁止をあげる作者側の思考としては、否定されて自己肯定感が削られるのが嫌という話です。
これ自体は、異常だと思いません。人間ですから。
自分の生み出したものが人目に晒されて否定される。相当なストレスです。それが正論であってもです。 仕事でミスをして上司にこっぴどく叱られたとき、その指摘が100%正しくてもめちゃくちゃ辛いですよね。人間は自分を否定する言葉を、正しさに関係なく「攻撃」として受け取ります。だから「私を攻撃しないで」と声を上げる。
特に。作者がその作品を愛しているならダメージは増加します。愛していないものなら何を言われても平気なんですよ。以前SNSと自己肯定感の話でも書きましたが、自分の愛するものを否定されたときにはダメージを受けます。自分のシナリオを愛している作者ほど、レビューが怖い。
そこに、ずっと言っている話ではあるんですが、TRPGプレイヤー、面倒くさい人が多いんですよ。
これは批判ではなく、私を含めた客観的な観察です。自分の遊び方・感性・こだわりを強く持っている人が多く、それを否定されると深く傷つくナイーブなタイプと、真っ向から対立して頭に血が上るタイプに分かれる。「ネットに出したら批評されて当たり前」という一般的な感覚とは、ちょっと違う場所に立っている人が多い。
だからレビュー禁止を掲げる作者が出るし、怖くなって非公開にする作者も出る。心情は、分かります。分かるんですが……。「レビューサイトができたこと自体」への否定的な意見は、明確に少数派に見えます。
レビュー反対の作者に対する構図としては、「有償で売っておいて購入者の意見をシャットアウトするのは何様なんだ」という声のほうが圧倒的に多い印象です。まあそもそもレビューを拒否する作者というのも、シナリオ作者の中では少数派ではあるのですが、
ちなみにこの構図、今回が初めてではありません。2025年9月には、無償公開されている同人シナリオ約300本のレビューを有償で公開しようとしたレビュアーが炎上しました。作者側からは「人の褌で金を稼がれるのだけは我慢ならない」という声が上がり、その日のうちに規約を更新して有償レビューを禁止した作者もいます。
「レビューされること」への抵抗感は、この界隈にずっとくすぶっていたわけです。大福は火をつけたのではなく、もともとあった火に風を送っただけ。
作者ファーストという界隈の空気感
作者がレビューを拒否しようとする感情について、「心象的には分かるが、世間一般的には許容されない」という話を先程しました。ここについてもう少し強火で「そもそもが、そういう話になるのがおかしくない?」という話をします
作者はレビューも改変も拒否出来ない
まず、身も蓋もない話として、作者がレビューを拒否することは実際としては不可能です。
購入後に見れるreadmeのテキストに規約があり、「レビュー禁止」「レビューサイトへの掲載禁止」と書いても、それが法的に有効な契約にはならないでしょう、
契約の条件として扱われるかは、購入前に条件が表示されていたか、利用者が合意していたか、その条項が一方的に不利益なものではないか、といった事情で変わります。それが何でも通るなら、購入後のreadmeに「購入者は作者に100万円を送金するものとする」と書けば送金しなきゃいけなくなる? ならないでしょう。(民法548条の2、いわゆる定型約款の話です。私は法律家ではないので、詳しくは法務省の解説か詳しい人に聞いてください)
作者のいう「レビュー禁止」はお願いです。お願いを言うのは自由ですよ。でもレビューを書く側にも発言する自由がある。作者にも「やめてほしい」とお願いする自由がある。
でも、飲食店の店主が食べログに「うちのレビュー全部消して」と言ったら? Amazonの出品者が「星1を消してくれ」と言ったら? 通りません。通らないどころか、言ったこと自体が問題になります。
作品を世に出したら、それがどう受け取られるかは作者の手を離れる。 どの創作分野でも当たり前の話です。というか、手を離れるからこそ「作品」なんですよ。
なのにこの界隈では、「作者が希望すればレビューは止められるはず」「止められないサイトのほうがおかしい」という前提の意見が、普通に出てきます。そこが歪みです。この発想こそが「作者ファースト」になります。
ちなみに各サイトでの掲載拒否が可能かどうかの対応表は以下のとおりです。
| サイト | 作者が掲載を止められるか |
|---|---|
| COC同人シナリオレビューサイト | できる。「掲載不可作者一覧」があり、8/20時点で11名が載っている |
| TTRPG.JP | シナリオページは製作者本人が作る方式。コメントの無効化も設定できる |
| TRPG大福 | 規約上、作者が掲載を拒否できる仕組みは見当たらない(削除相談の窓口はある) |
そして実際に見つけたんですが、8月22日時点で、「掲載しないでください」と手を挙げている作者のシナリオが、大福では堂々とレビューを集めています。
サイトは悪くありません。「作者が全レビューを止められる」という状態が、そもそも構造的に成立しないというだけの話です。
誤解のないように言っておくと、私は「作者に何の権利もない」と言っているわけではありません。作者はちゃんと強い権利を持っています。
法律に裏打ちされた、本物の権利
- 勝手にコピーして再配布されない
- 改変したものを配布・販売されない
- 売るかどうか、いくらで売るかを決める
ここは強い。文句なしに作者のものです。無断転載や、勝手に改造した版をBOOTHに並べるような行為は、はっきり権利侵害でしょう。これです。作品を作った著作者としての権利、販売元としての権利、これが作者の持つ絶対の権利であり、そこから先は対象外です。
「読んだ人・遊んだ人が何を思い、何を口にするか」というのは、完全に蚊帳の外になります。
ちなみに今回は本筋から逸れますが、「改変禁止」も同じ状況にあると言えます。GMがNPCの口調を変えた。人数に合わせてHOを削った。難易度を下げた。エンディングの演出を足した。これも作者の手を権利の対象外と言えるでしょう。
理由は単純で、TRPGのシナリオはそもそも改変されることを前提に書かれた著作物だからです。小説は完成品です。読者は読むだけ。でもシナリオは違う。GMが読んで、解釈して、その卓に合わせて調整して、初めて遊びになる。未完成品として渡されている。 レシピと同じで、キッチンに立った人が塩を足すことまで含めて設計されているんですよ。
法律的にも、身内の卓で使うために手元で書き換えるだけなら、私的使用の範囲という整理になりそうです(著作権法30条の私的複製が認められる場面では、47条の6で翻案も認められています)。ネットで集めた野良卓がどこまで「これに準ずる限られた範囲」に入るのかはよく分かりません。ただ少なくとも、配ってはいない。
要するに、TRPGでよく言われる「改変禁止」は、「レビュー禁止」と同じ穴のムジナなんですよ。
……いや、むしろ改変禁止のほうが根が深いかもしれません。レビュー禁止が縛ろうとしているのは「遊んだ後に何を言うか」ですが、改変禁止が縛ろうとしているのは「遊んでいる最中の振る舞い」ですから。他人の家の食卓に上がり込んで、塩を振る手を止めにいっている。
念のため言っておくと、改変禁止を掲げる作者に悪意はありません。作品の芯を守りたい、この伏線が壊れると全部台無しになる、という切実な理由があります。そのお願いには筋が通っているし、私も自分が回すときは極力尊重します。
でも、それは権利ではなくお願いです。
私が最も引っかかっているのは、「止められないこと」そのものではなく、「作者にはレビューを止める権利があるはずだ」という発想が、この界隈で普通に流通していることです。
「作者が希望すれば止められるのが当たり前」「止められないサイトの方がおかしい」という前提で議論が進む。この歪んだ前提こそが、私が「作者ファースト」と呼ぶ空気感の正体です。
同人は褒め合う文化
TRPG界隈が作者ファーストの空気感を持つ理由は、TRPGシナリオが「同人」の文脈で育ってきたからです。
同人という言葉は、もともと「同じ趣味を持つ仲間」という意味です。即売会に行けば、作った人が机の向こうにいて、買う人が目の前にいる。顔が見える。手渡しです。
その場で「これ、正直つまらなかったです」と言う人はいません。言ったらただの失礼な人です。合わなければ黙って離れる。だから同人の感想は、基本的にポジティブしか流通しません。「良かったところを言う」文化です。
そしてこれ、私は良い文化だと思っています。 否定する気はまったくない。
商業と違って、同人は誰にも頼まれていないのに作られたものです。作らなくても誰も困らない。それでも作った人がいる。その熱に対して「まず褒める」で応じるのは、めちゃくちゃ健全でしょう。この文化があるから、界隈に新しい作り手が入ってこられる。
作者ファーストの空気は、この優しさの延長線上にあります。出発点は傲慢でも悪意でもなく、仲間内の優しさなんですよ。
でも今のTRPG界隈、もう同人じゃなくないですか?
改めて、今のシナリオの流通を見てみましょう。
- 有償頒布が主流。1,000円台も珍しくない
- 販売はBOOTHやTALTO。買い手の顔は見えない
- 有名なシナリオでは数千を超えるダウンロード(販売数)が見込まれる
これ、即売会じゃないですよね。ECサイトですよね。
検索して、トレーラーを読んで、カートに入れて、決済して、ダウンロードする。この流れのどこに「同じ趣味を持つ仲間」がいますか。いません。いるのは売り手と客です。
売り方だけ商業になって、受け止め方だけ同人のままでいようとしている。これが、今の歪みの正体だと私は思っています。
即売会で手渡しするなら、「嫌なら買わないで」で通ります。目の前に作者がいるんだから。でも、顔も知らない相手に検索でたどり着かれて、1,200円を決済されて、自動でDLされて、その上で「感想は公開しないでください」は通らないでしょう。
念のため言い添えると、同人誌の世界だって完全に閉じて、ポジティブな意見以外をシャットアウトしていたわけではありません。あちらでも「頒布した時点で作者の手は離れる」という感覚のほうが今は主流です。転売や無断再配布には激怒しますが(当然です、それは権利の話ですから)、「感想を書くな」と言う作者はまず見ません。
TRPGだけが、まだ仲間内の顔をしている。
もう一度言いますが、褒め合う文化は良いものです。残ってほしい。ただそれは「批判を封じていい理由」ではなく、作者がそれに順応する前に市場が先に大きくなってしまった。
レビューサイトの登場は、そのズレを可視化しただけといえます。
その「お願い」の矢印は、どっちを向いているか
「お願い」をすること自体は自由だと、さっき書きました。だからレビュー禁止だとうたうのも、改変禁止だというのも自由です。ただ問題はその先。「そのお願いは何のためのお願いですか?」という話に入ります。
視点を変えます。SCRAPなどが手がけるリアル脱出ゲームに行ったことはありますか?
あれ系のイベントは、遊んだ後にほぼ必ず「ネタバレ厳禁」というお願いをされます。謎の内容、解答、配布物をSNSに書かないでください、と。ここではこれも、参加者に向けた「お願い」として考えます。形式としては、シナリオの「レビュー禁止」とよく似た構造をしています。
でも、この2つには決定的な差があります。「ネタバレ」か「レビュー」かという差ではありません。
差は、そのお願いが誰を向いているかです。私はこれを「お願いの矢印」と呼んでいます。
リアル脱出ゲームの矢印は、まだ遊んでいない未来のユーザーを向いています。あの遊びは「初見で謎に挑む」ことに価値のほぼ全部が乗っている。答えを知ったら、その体験は二度と戻ってきません。だから未体験者を守るためにネタバレを止めている。
そして、SCRAPは感想や評価をまったく止めていません。むしろ「謎に関わらない写真の投稿は大歓迎」と明言しています。「#脱出成功」「#脱出失敗」で感情だけを共有する文化も定着している。難易度、脱出成功率、所要時間、演出の印象を細かく書いた「ネタバレなし」レビューブログも、満足度を数値で集計する口コミサイトも普通にあります。
もちろん企業ですから、ネタバレで客が減れば収益が落ちる。最終的には自社のためでもあります。でも出発点はユーザー体験の保護です。その証拠に、評価情報の流通は一切妨げていない。
では、シナリオ作者の「レビュー禁止」の矢印はどこを向いているか。
未来のユーザーを向いているでしょうか。向いていないでしょう。 明らかに、作者自身が攻撃を受けないための防御です。そこにユーザーのためという成分は、基本的に入っていない。
これが「不誠実に見える」の正体です。制限の目的が、体験の保護ではなく自身の保身になっている。ユーザーを楽しませるためのお願いなら好意的に受け止められますが、そうではない場合は反発や不信を招きます。
たとえば、こう書いてあったらどうでしょう。
当シナリオは、表に見えている情報以外について何かを語ろうとすると、その時点でネタバレになってしまう構造をしています。初見で遊ぶ方の楽しみを奪ってしまうため、感想を人目につく場所に記載することはご遠慮ください。どうしても投稿されたい場合は細心の注意を払っていただき、みなさんが楽しめるようご協力いただけますと幸いです。
同じ「レビューを書かないでほしい」でも、印象が全然違いませんか?
これは「私を守れ」ではなく「次に遊ぶ人を守ってくれ」というお願いです。矢印がユーザーを向いている。こう書かれていたら、私は普通に従います。従いたくなる。
同じお願いでも、矢印の向きで受け取られ方は180度変わる。
シナリオはレシピ、セッションはパーティ
ここからは、また別の軸の話になります。作者に対するご意見は一旦ここまで、これからはレビューを書く人や、それを読む人向けの話です。
大福のレビューを読み込むと、有意義なものとそうでないものにはっきり分かれます。特に低評価。論理と筋道の通った批判もあれば、感情のまま「楽しくなかった」だけが前に出ているものもある。後者は参考になりにくいし、度が過ぎると中傷になりかねません。
なぜこうなるのか。原因は2つあります。TRPGとレビュー文化の構造的な相性の悪さ。そしてインターネット特有の炎上。順にいきます。
大福のレビューには「シナリオを読んだかどうか」「PL通過か、GM通過か、未通過か」を書けます。これがどういうことかというと、それぞれの感想はまったくの別物だということです。そしてもっと踏み込むと「シナリオ」と「セッション」の評価はまた別ということです。
神シナリオだったけど、自陣はあまり楽しめなかった。クソシナリオだったけどメンバーに恵まれて楽しく遊べた。ということがよく起こるのがTRPG界隈です。
「卓ブレ」がレビューに混ざる
TRPGの遊びを料理に喩えます。
シナリオは「レシピ」です。
作者が書いて世に出した作品であり、GMはそれを読み、理解し、回し方を組み立てる。だからシナリオ側の評価で中心になるのは、大きく2点です。
- このレシピで作れる料理は美味いのか――物語、ギミック、ゲームバランス、仕掛けが作り込まれているか
- レシピとして読みやすいか――必要な情報が漏れなく書かれているか、文章が整理されているか、立ち絵・背景・マップといった付属品が使いやすく揃っているか
これがシナリオ側の評価です。シナリオのレビューとは、セッションで食べた料理を手がかりに、レシピとしての出来を語ること。
一方、セッションは「そのレシピで作った料理を出したパーティ」です。
ではここで質問なのですが、パーティの満足度において、レシピが占める割合ってどのくらいですか?
料理は大事です。でも、パーティが楽しかったかを決める要素はレシピだけじゃない。
- 誰が作ったのか。その料理人の腕は
- レシピ通りに作ったのか。それとも上手にアレンジしたのか
- 同席したメンバーは誰か。嫌な人はいなかったか
セッションが楽しくなる条件は、レシピが良い・料理人の腕が良い・集まったメンバーの好みが合っているの3つ。レシピはそのうちのひとつでしかない。
コンシューマーゲームなら、開発者が作った遊びをそのまま味わえます。誰がプレイしても、同じステージは同じステージ。でもTRPGはここが特殊で、GMが読んで解釈し、それをPLが遊び、そこにPCという乱数が持ち込まれてブレる。 同じシナリオでも、卓が違えば別のゲームになる。
だからこそ、地続きの体験ではあっても、シナリオ由来の話と、その卓由来の話は分けて語られなければならない。なのに、ごちゃ混ぜになる。
私はこの現象を「卓ブレ」と呼んでいます。同じレシピを使っても、誰が作って誰と食べたかで、出てくるものがブレる。その卓固有のブレのことです。
大福の低評価を読んでいると、その多くが「シナリオの感想」ではなく「セッションの感想」なんですよ。つまり「PLとして通過しました。シナリオは読んでないです」な人がの押した感想が多く、しかもそれがそのセッション固有の話なのか、シナリオが抱えている不備なのかが分かりづらい。
もちろん、セッションを経た上でシナリオ側に問題があると明確に感じることはあります。「NPCの主張が強い構造なのに、その旨がトレーラーに書かれていない」なら、それは立派なシナリオ批判です。ちゃんとシナリオ評として成立している低評価は、たくさんあります。
問題は、自分の卓で起きた固有のブレを、誰もが経験する共通の事実であるかのように書いてしまうところ。それはブレであって、レシピの欠陥ではない。
ただ、この線引き、遊んでいる本人が意識するのは相当難しいです。体験は地続きなんだから。「シナリオが悪かったのか、卓がブレたのか」を切り分けられる人は、正直かなりの上級者です。
だからこれは「レビュアーが未熟」という話ではありません。TRPGというジャンルが構造的に抱えている難しさです。
ただ、2026年3月末に出た「シナレビ!」は、レビューとセッション報告を分けて投稿できる設計です。評価軸も5軸5段階。つまり「レシピ評」と「パーティ評」を、最初から別の箱に入れさせている。かなり本質を突いていると思います。
大福も、1章で触れたとおり「PLかGMか」「何人卓か」「何時間か」をレビューに添えられます。読む側が「これはGM視点の回しやすさ評だな」「これは2人卓固有の話だな」と補正をかけられる。地味ですが、同じ問題への処方箋です。
つまり、「レビューの質が低い」は民度の問題に見えて、実はUI設計の問題でもある。 ここは各サイトの成熟に期待したいところです。
もうひとつの問題、「叩いていい空気」
原因のもうひとつは、エコーチェンバーです。ネットに住んでると耳にタコができるくらい聞く言葉ですね。
ネットでは、自分と同じ意見を見つけると、その意見が増幅されます。かなり偏った感想でも、同じことを言っている人が数人いれば「これが多数派だ」と錯覚してしまう。
シナリオへのネガティブな感想がどんどん増幅されて、やがて「この作者のシナリオは全部クソ」みたいな雑な結論に染まっていく。そうなると、自分の好きなものを貶す人は敵だし、自分が嫌いなものを愛している人も敵。無視できる人はいいですが、攻撃に走る人も出てきます。
「叩いていい空気」ができあがってしまう。 そしてレビューが気軽に書けるほど、その空気は増幅されやすい。作者が「書かないでほしい」と願う理由の中には、この荒れ方を嫌っている人も確実にいる。
荒れている様子を見たユーザーはそのシナリオに興味がある/ない、好き/嫌い、に関わらず刺激物をみたわけですから、あまり良い感情にはならないでしょう。SNSでもよく見られる現象ですが、こういう基本的な問題をレビューサイトも抱えています。
そこで、レビューを見る側の人にどうか冷静な目線を持っていてほしいと思います。煙が立った。だからシナリオに火がある。とは限りません。
誤解や便乗で叩かれることもあるし、卓ブレがシナリオの欠陥として書かれることもある、叩かれている要素は実はかなりニッチなごく一部の人だけが気にする要素で、大多数な人はどうでもよくない? と考えるかもしれない。煙の出どころは切り分けなければいけません。
ただ、理由まで書かれた低評価には、何かしら怒りや悲しみを生んだ具体的な出来事があります。セッションで何が起きたのか。シナリオのどこに引っかかったのか。作者がどう対応したのか。そこまで読めば、次に遊ぶ人の判断材料にはなる。人間、何もなかったところに長文の低評価を書くほど暇じゃない。
そして、これまで見えなかった声が可視化されること自体に、明確な価値があります。
遊ぶ側は、それを見て「自分に合うか」を判断できる。作者は、それを見て改善を検討できる。今までこの情報は、DMや身内の飲み会の中でしか流通していませんでした。表に出るようになったのは、それ自体が前進です。
さらに大福はGoogleアカウントでのログインを必須にしています。捨てアカでの爆撃を完全に防げるわけではありませんが、ひと手間ぶんの抑止にはなる。規約にも、誹謗中傷や虚偽情報は予告なく非表示・削除することがあると明記されています。運営も分かった上で設計しているわけですね。
「作者が筆を折って界隈が廃れる」への回答
この学級会で必ず出てくる反論に答えます。
「レビューが嫌でシナリオを書くのをやめる作者が出たら、界隈のシナリオが減って、TRPG全体の寿命が縮むのでは?」
たしかにTRPGは狭い界隈です。作者1人が筆を折れば、世に出るシナリオはその分減る。供給が細れば、遊ぶ側の選択肢も減る。理屈は分かります。分かるんですが。
その状態で折れる筆なら、折っておけ、と私は思います。
厳しい言い方ですが、これは作者を憎んでいるのではなく、市場の話をしています。
Amazonで、レビュー機能が無効化された商品が並んでいたらどう思いますか? 中身が実際に良かろうが悪かろうが、「評価を見られない」という一点で、その商品は怖いでしょう。実際の品質に関係なく、市場全体の信頼度を下げてしまう。ノイズです。
有償シナリオで「レビュー禁止」を掲げるのは、これと同じことをやっています。金を取り、購入前の試読はほぼできず、返品もできず、その上で購入者の評価も封じる。 これを消費者目線で「誠実な商品」と呼べるでしょうか。呼べないと思います。
だから、そういう作品が市場から消えることは、供給の減少であると同時に、不透明な商品の除去でもある。私はこれを自浄作用だと捉えています。
そして正直に言うと、人に評価されたくないというのは、甘えです。矢印を自分に向けたまま、市場にだけは居続けたい。4章で書いた「作者ファースト」の一番わかりやすい甘い考えがこれです。
YouTuberでも、芸能人でも、作家でも、漫画家でも、飲食店でも、そんな話は通りません。世に出したものは評価される。宿命です。人に評価されず、閉じた場所で褒めてくれる人の声だけを聞いていたい。それって、怪しいセミナーや新興宗教とやっていることが同じですからね。
ただし、留保を2つ。ここを飛ばすとただの暴論なので。
留保1:「レビュー禁止=低品質」ではない。
レビューを嫌う理由は一様ではありません。攻撃的なコメントで消耗して疲弊しているだけの、良質な作者も確実にいます。
留保2:レビュー側の成熟も同時に必要。
レビュー禁止が減って透明性が上がっても、中身が卓ブレだらけなら透明性が上がったとは言えません。 情報が増えただけで精度が上がっていないなら意味がない。
それでも私は「読む側は選べる」という点を重く見ます。明らかに感情だけのレビューは、読んだ人が勝手に割り引く。誰も参考にしない。そして大福には「参考になった」ボタンと、「参考になった順」の並べ替えがある。 自動的に質の低いレビューが消えるわけではありませんが、読む側が選別するためのふるいは、すでに実装されているわけです。
だから私は、自浄作用のほうに賭けます。
まあ、そもそもレビューなんて来ねえよ
結論です。
TRPG界隈に吹いた新しい風として、レビューサイトの登場は良い試みだと思っています。問題も一緒に可視化されましたが、それはもともとあった問題が見えるようになっただけです。見えないほうが健全、なんてことはありません。
……で、ここまで散々語っておいて、私自身の話をしていませんでした。
レビューもらえるともうすーーーーーっごい嬉しいんですよ。
評価ができるということは、シナリオをちゃんと読んで、遊んで、それを自分の言葉に置き換えてくれたということでしょう。あれ、作者とレビュアーの間ですごい密度のコミュニケーションが取れているんですよ。
「そこを理解してくれてありがとう」「その仕掛けに気付いてくれて嬉しい」という褒められた喜び。そして「ああ、そこの説明が足りてなかったな」「ここの書き方、不親切だったな」という、自分では気付けなかった不備の発見。両方もらえる。 こんなにおいしい話ある?
で。実際に大福を見に行ってきました。私のシナリオは16本登録されています。戦績がこちらです。
| 状況 | 本数 |
|---|---|
| レビューが付いている | 3本 |
| レビュー0件 | 13本 |
16本中13本、レビュー0件。 総レビュー数4件。2026/08/22 時点での話ではありますが、こんな状態です。これが現実です。
いや、付いた3本が全部★5なのは素直に嬉しい。ちゃんとそれぞれシナリオの構造をきちんと言語化してくれている。問題点も指摘してくれてる。マナーが良すぎる。ありがとう。本当にありがとう。泣きそう。
でも13本は無風です。
これが、レビューに怯えている作者に一番言いたいことです。
安心してください。ほとんどのシナリオには、レビューなんて1件も来ません。 遊んでくれる人だってごく少数です。それが現実。だから怖がらなくていい。
そもそもね。自分以外の誰かの手でシナリオが回されていること、知らない卓で自分の書いた物語が動いていること、それに触れた誰かが何かを感じてくれたこと。これ、めちゃくちゃ贅沢なことなんですよ。
その贅沢の副産物として、たまに耳の痛い言葉が飛んでくる。それくらいの取引、悪くないと思いませんか。
レビューを嫌う人は嫌っておけばいい。それで筆を折る作者は、まあ、折っておけばいい。不健全な商品が市場から消えたら、それはそれで見通しが良くなってせいせいします。
ただ、レビューを書く側もね。ちゃんと建設的なことを書こうね。自分の卓の愚痴とか、周りの叩きたがりの空気に流されただけの中身のない罵倒とか、そういうのはやめようね。
まあ、感情のままに書きなぐった文句も、感情としては紛れもない真実ではあるので。そういう個人の感想レベルのものも全部ひっくるめて、市場の自浄作用でゆっくり良くなっていけばいいなあと思っています。
そんなわけで。
私のシナリオはレビュー絶賛受付中です。13本、空いてます。
みんな! 書いて!! 星付けだけでもいいからさ!!!!
ふれのでした。